(暴動じゃない)

 街に燃え盛る炎が全く見えないことがそう確信させた。それにヘリから撃ち下ろされる機関砲弾も見ることが出来ない。疑問が不安をあおりたてる。

 アクセルを開ける手に力を込めて峠道を駆け下った。

(次の道を右……)

 亜紀の実家は市内とは言え山肌に建てられた新興住宅だ。間もなくその町に辿り着くだろう。

 山沿いに南に向かう道に入るとはやる気持ちが抑えきれなくなった。しかし次の瞬間、バイクは突然バランスを失い、俺とあさきちは同時にアスファルトに叩きつけられた。

(なんだこりゃ?!)

 道路上を滑走する体がなかなか止まらない。その感触で地面が泥に覆われている事を覚った。雨が降ったとは考えにくい。

 ようやく止まった体を起こすとあさきちの無事を確認する。どうやら二人とも大した怪我は無いようだ。

「こんなとこまで来てたんか……」

 バイクを引き起こしながら洩らしたあさきちの言葉に反応した。

「なにが!?」

「あの津波に決まってるっしょ」

(あの時の津波か?)