暗闇の中で、波の音だけが近くで、遠くで、鳴っている。

眠い目をこすりながら、頭だけは奇妙なくらいに冴えていた。

ぼやける視界の中、船にせっせと荷物を運ぶキミの姿が見えた。

「やあ、来てくれたんだね。」

「来るさ。当り前だろう。」

一度、荷物の山のほうへもどって、何かを持って帰ってきた。

やがて、それがギターだとわかった。

キミはそれを黙って突き出した。

「きっと、向こうには弾いて聞かせる人もいないさ。持っていっても仕方がない。キミが持っていてくれ。」

「何を言っているんだ。持って行けよ。ぼくたちだってもう会わないんだ。」

「帰ってくるさ。きっと、帰ってくるからな。」

それだけ言うと、さっさと荷物を運んでしまって、

「じゃあ、またいつかな。」

いつまでも船から手を振って、朝日の中へ消えていった。