「つらかったねぇ。独りで頑張ったねぇ。泣きたかったろう。死にたいと思ったろう。よく耐えたねぇ」


 老婆は優子の頭を撫で、泣きそうな声で優子を労う。

 優子は、何故老婆が泣きそうな声なのかを気にしながらも、素直に涙を流した。老婆の言う事全て、その通りだったからだ。

 死にたいと思った事もあったのだ。


「私も子どもが死んだ時、死のうと思ったよ。でもな、死んだらいけん。優子はまだ小さい。まだまだやらないといけん事がある」


 老婆は涙を流しながら、優子の頬を両手で包み込む。


「笑いなさい。笑いなさい。痛くても苦しくても、笑いなさい。そしたら幸せがやって来る」


 子犬達は静かに二人を見上げている。


「泣きたい時は誰かにすがりなさい。でも、泣いた後は笑いなさい。笑いなさい…」


 笑ったら気持ちも晴れると老婆は言った。

 泣きながら笑うという、高度な技を見せた老婆に、優子はぎこちなくも口許を緩めた。

 老婆はうんうんと頷く。


「笑顔は誰かに幸せを与えるんだよ。私は今、優子の笑顔から幸せを貰ったよ」


 元から皺くちゃな顔を余計皺くちゃにして、老婆は笑った。

 その言葉が優子の心に響いた。

 笑顔の意味を昔、母から教えてもらった。老婆の言った通りの事を。

 貧しくても苦しくても、笑う門には福来る。そう言い、笑っていたのだ。

 涙は相変わらず止まらないが、自然と笑みが浮かんだ。幸せだった日々を、笑顔の意味を思い出して。


「やっと見つけた。橋本優子ちゃん」


 突然縁側から声が聞こえ、二人は驚いて縁側を見た。

 そこに立っていたのは、スーツ姿の若い男。優子はこの男の事を知っていた。