「その時、お父さんが呟いた言葉を今でも覚えています」

「言葉? 父はどんな言葉を?」

「いつか治療法を見つけてくれるだろうか、と」

「─――っ!」


 昔の事を思い出した。

 遠い昔、医者を目指した時の事。


「そう……なんです。私、医者になって父を助けたかった」


 疎遠でも病気でも、父は父。あの頃もそんな思いが少なからずあった。


(こんな大切な事、忘れてた)


 いつの間にか、何も考える事なく事務的に医者をしていた。


「お父さんのような方は、たくさんいます。どうか、その方達の力になってやって下さい」

「っ、はい──」


 会いに来た事は無意味ではなかった。

 私には、達成すべき目標がある。父から始まった私の使命。私はこの為に生まれ、生かされて来た。


 私は看護師に一礼をし、父の病室に背を向けて歩き出した。


 ―――夏菜。

 最後に会った日、名前を呼んだ父の声が頭の中で木霊していた。





*End*