それが、合図だった。
「ぃやあぁぁぁっ!」
「ちゅぱぁぁぁっ!」
勝負は、本当に一瞬だった。
「ちゅぱ……」
長倉の頬に一筋の血が垂れる。
「うっ………」
やや予想通り、乱桐はドサリと床に倒れた。
「安心しなミネウチだ」
「くっ……やっぱり、無重力状態じゃなきゃ、従来の力は発揮できないか……」
「負け惜しみにしても、もっといいのがあるでしょうよ」
ついツッコんでしまった亜九谷に、教本を眺めながら、三澤が言う。
「いや、本当にそんな拳法らしいな」
「そうなんですか!?」
「あー、たぶん。教本を読む限りは」
チュパカブラと無重力状態での戦闘すら想定して作られた拳法。
「…………世界って広いですね」
「宇宙よりはマシだろ」
確かに。
妙に納得した。
納得して、聞いたこともないようなトンデモ拳法に出会う、そんな自分の人生に、
亜九谷は、もう一度、ため息をついた。