それから2曲歌うと、また三味線を弾いて終わった。

冬椿は僕のほうを見て、目で合図をした。
僕は慌てて台本を見る。

「冬椿さんでした。ありがとうございました。なお冬椿さんのCDは当店レジ脇にあります」

しどろもどろだがアナウンスを終えると、地元の幼稚園のダンスが始まった。ほっとしてマイクを置いた。
僕はその足で控え室へ入る。冬椿は控え室で休んでいた。

「なかなか上出来だわ。最後の挨拶の時、合図したのわかった?」

「うん、もう足ガクガクして脱力だよー」

そう言うと、冬椿は笑い転げた。
僕はちょっとムッとした。

「ごめんなさい。あんまり真剣な顔してたから…。お疲れ様でした」

そう言うと冬椿は、鏡の前で髪を直している。僕は緊張が解けたのと、朝食を食べ損ねたせいかお腹がグーっと大きい音をたてた。