店内のアナウンスで、ぼちぼち人が集まって来た。冬椿は紅白の垂れ幕の後にスタンバイしている。
さすがに緊張しているのか、厳しい顔をしていた。こういう顔も可愛いなあ。ちょっとドキドキする。

「ほら、ちゃんとやってよ。台本通りね」

ぼーっと見ていた僕は、冬椿にくぎをさされ

「すみません」

僕は慌ててそう言って、マイクを手に取る。右手にマイク左手に台本…。緊張はピークに、心臓の音が耳元で聞こえる。

「皆様、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。それでは…。」

僕の台本通りの挨拶が終わると、冬椿は演奏を始めた。今まで、ガヤガヤとうるさかったお客達はシンと静かになった。冬椿の津軽三味線が、駐車場に響いている。何だろう、僕は体の中から何か熱いものが湧き上がってくるのを感じた。