その男が悲鳴を上げた。

 肩に手を当て体が硬直していた。俺がそいつの肩を鎖骨から掴んでいたのだ。俺は渾身の力を込めてそいつを後ろに投げ飛ばした。そいつはカメラと三脚をすったおして動かなくなった。

 驚く連中は体を起こしたが、隣の奴の腹を俺は横に蹴飛ばしていた。こいつはあいつを襲ったとき、あいつから一発喰らっていた。蹲ったまま嘔吐して気を失った。

「貴様は!」
 鬼芦と残った手下は退いて身構えた。だが、あっという間に二人の戦力を俺は奪っていたのだ。

 あいつが信じられないと言う顔で俺を仰いだ。涙が頬に筋となっていた。
 鬼芦は獣のような声を上げて俺に襲いかかると、俺の首を締めだした。背の高さと臂力に任せ、親指を俺の喉にかけ、喉笛を潰そうとしてきた。喧嘩でも禁じ手の一つだ。俺は鬼芦の指と手を握り、奴の力を中和していた。奴が唸り声を上げて指を締める。俺は奴が俺を殺そうとしていることを確認した。奴の狂った目を凝視した。

 鈍い音がした。ぎゃーという絶叫が闇となった部室の廊下に響き渡った。

 俺の林檎を握りつぶせるほどの握力は、鬼芦の両親指を外側に折ってしまったのだ。