寒さが本格的になったある日の夕方、俺は授業が終わった校舎の三階の部屋の窓からサッカー部の練習を見ていた。

 練習が終わった後も、あいつはPK戦の練習を一人でし始めたので俺も見続けていた。
 あれから一回も面と向かったことはないが、同級生と話しながら歩くあいつを見つけるとしばらく眺めていたりした。

 俺はグランドを見ながら、あいつの息づかいが間近に聞こえてくるような錯覚を感じていた。あいつの汗の匂いを嗅いでみたい、と下腹に疼きを感じた。俺もヤキがまわったか、と苦笑いした。

 もう薄暗くなってきた。冬のグランドにはあいつ一人しかいなかった。そのとき、あいつの後ろからばらばらと駆け寄っていく連中がいる。まだボールを蹴っているあいつは気づかない。俺は反射的に立った。

 あいつは近づいてくる奴らにやっと気づいたが、遅かった。あいつは羽交い締めにされ、口に何か巻かれたみたいだ。前にいた一人があいつの強烈な蹴りにうずくまった。体の大きな男があいつを殴った。ぐったりしたあいつを取り囲んで、黒い学ランの連中はあいつを部室の方に引きずっていった。