あいつはサッカー部で結構注目され始めた。

 サッカーをやりたいために進学した、と言うだけあって試合の時の動きは群を抜いていた。その中性的な容姿と可愛いマスクはすぐキャンパスの女学生の人気の的になった。
 女の子の様な天才サッカー少年、ということで大学のマスコット的な存在になった。本性はじゃじゃ馬だということを知っている俺は苦笑した。
 鬼芦達も迂闊に手が出せなくなった。

 『サッド・カフェ』に集まる悪友達の間でもあいつの噂は良く出た。このご時世にはもう男色という性のタブーはなくなったらしい。少なくとも、俺の悪友達の話の中では。あいつなら恋人にして一緒に歩いても恥ずかしくはない、ということのようだ。やれやれ。

 俺は、俺の小説の主題である『今生の契り』と恋の解説を聞いて涙を流した、あいつの顔を思い出した。

 俺が書いているのは、戦国時代の話だ。戦闘場面を多く入れたので登場人物は殆ど男にしたが、恋物語も挿入したいがため、美しい少年を創出した。

 姿は少年だが、感性的には女性なのだ。

 俺は頬杖を突いて夢想した。
 あいつが、女ならなあ・・・でも小説家になれるかも分からない俺なぞに手が届くとも思えない。