収まらないドキドキと、重ならなかった唇と、混乱する私を置いて、彼は唇を噛む。
精悍な顔に似合わない、焦りの色が一瞬浮かんだ。

それから、ぽつりと低い声で呟く。

「お主、クロを、探してこい。
 お主に良く似た女子(おなご)じゃ」

……はい?

首を傾げようとする私に、刀の刃の煌きに似た鋭い視線が飛んでくる。

うわぁあ。

特にその左目っ。
喉元に刃(やいば)を突きつけられたほどの緊張感を強いるから、睨むのはやめてぇっ。

私はごくごく普通の女子高生で、そういう、修羅場を思わせるような緊張感とは無縁なんですからっ。

怯えながら言葉の出せない私を、さらに睨みつける。
あ、その手で刀を掴むのはやめてっ。

「返事は?」

「え?」

「主君に命ぜられた場合、家臣がなすべきことは一つしかないであろう。
 返事をして、即行動」

ひぇええええっ。
あの大木のごとく、ざっくりと、私の身体を切り裂こうとされてます?
もしや。

わ、私はあなたの家臣ではございませんがっ。
ああ、ゆっくりと鞘から抜かれていき、磨き上げられた煌く刃が見えてくる。


「は、はいっ。分かりましたっ」

命の危機を感じると、口は勝手に動くもんだってことを、私は今、ここで実感してしまった。