「夏希、か」

智さんの手が、私の顎を持ち上げた。
心拍数がぐぐっと上がる。

で、でも。
彼はあくまでも「伊達政宗」と名乗る状態にトランスしている智さんであって、平常な智さんではないわけで。

なんとなく、心中複雑な思い。

ゆっくりと、その、形の良い唇が近づいてくる。
ど、どうしよう。

これはやはり、記念すべきファーストキスにカウントするべきかしら。
それとも、事故?
避けきれぬ事故として処理するべき事案なの~?

頭の中がぐるぐるする。


重なる直前で、ふっと、笑う。

「確かに、クロじゃない」

そういって、ゆっくりと手が、顔が、離れていく。