「……クロ?
 何をぼさっと突っ立っておる」

いらつきを隠さない口調で言うと、ようやく日本刀を鞘に納め、こちらに歩いてくる。
うわぁああっ。
大股でずんずんと、ものっすごいスピードで。

そして、これまた肌が触れるかと思うような至近距離で私を上から下まで嘗め回すように見たあとで、

「お主、クロじゃない……?」

と、うっすらと呟いた。

きゃぁああっ。
日本刀を抜かないでっ。

敵じゃないから、私。
もちろん、その、クロとやらでもないと思うけれども。

腰の日本刀に手をかける智さんを、私は慌てて諌める。
指先は、恐怖で震えていた。

「あの、クロというものではありません。
 私、千崎夏希です。
 先日、ご挨拶させていただいたとは思うのですが」

一瞬、智さんがその瞳を眇めた。
鋭い視線は、私のハートを射抜いていく。


まぁ、もう、10日前に相当射抜かれてるんだけど。