「クロ」

凛とした、低い声が空気を割く。
トランスしているであろう智さんの目は、怖いほど真っ直ぐに私を見ていた。

もっとも、輝きがあるのは左目だけ、だけれども。

「……な、なんですか?
 私、シロって答えたらいいの?」

山といえば川、みたいな合言葉かと思って、こっそり久遠さんに聞いてみる。

「知るか」

言って、久遠さんは私から手を放した。

うう。厳しいです。

「随分と姿を見せなかったが、何かあったのか?」

その声は僅かに優しさの色を帯びた気がした。


ええ?
私、いつの間にクロさんなんて愛称をつけてもらったのかしら。

随分とって、それは、あれ?
愛ゆえのお言葉?


混乱して起こるドキドキを、私の脳は都合よく誤解して、ますます恋のボルテージを上げていく。

で、でも。
あの日本刀が届かない距離を保っておきたいのも事実ですが……。