それは、この花屋からそう遠くないところにひっそりとあった。
瀟洒な建物には一見して、それと分かるような看板など出ていない。

「あ~ら、いらっしゃい。
 久遠ちゃん」

久遠さんを見て、鼻に抜けたような甘い声を出したのは、40代の男性だった。
印象的な大きな瞳。
整った顔に、ギャルソン風の服が良く似合っていた。
身長は、目測で170センチくらい、かしら。

「最近、姿見かけないからどうしたのかと思ってたのよぉ~。
 この前のお茶、どうだったかしら?」

喋り方と仕草から勝手に判断しても良いのであれば、『おかまちゃん』。

笑うたびに大きな手のひらで唇を覆うのだけれど、その小指がぴこりと立っている。

「とても美味しかったですよ。
 さすがにママの見立ては違う」

さらり、と。
普通の女性に返すのと大差ないような自然さで言葉を返す久遠さんって、やっぱり只者じゃないのかも。