ぐび、と。
とても茶の席に相応しいとは思えない仕草で、伊達さんが最後の一滴を飲み干した。

「良い茶であった」

返される器を丁寧に受け取る久遠さんに、あからさまに上から目線の礼を述べる伊達さん。

しん、とした空気が当たりに漂う。
そして、一瞬の後。

「……あれ? 夏希ちゃん、いつここに来たの?」

伊達さんが、智さんを解放したといえばいいのか。
さっきまで、怖ろしいほどの緊張感に満ちていた智さんが、緩やかな声を私にかけてきた。


「お前がトランスしている間に来たに決まってんだろ」

私が答えるより先に、久遠さんが軽口を叩いた。

「ああ、またトランスしちゃってた?
 ありがとう。
 久遠のお茶がないと、元に戻るのに時間がかかって困るんだよね」

「そうだと思って、来てやった」

ありがたく思え、と口では呟きながらも視線を外すのは案外と照れ隠しだったりしてー。
久遠さんの意外な一面を見たようで、なんだか嬉しくなる。

「……もしかして、智さん。
 私と初めて逢ったときって、覚醒の途中でした……?」

「ああ、多分そうだと思う。
 何か、夏希ちゃんを困らせるようなこと、しちゃったかな?」

なんて短い黒髪を撫でながら首を傾げられたりしたら、もう。
首を横に振るしかないじゃないですかっ。

ああ、素敵。
何、この神様が創った奇跡みたいな造詣のフェイスはっ。
テレビ越しに初めて見たときから、とっくに私の心臓はこの顔に鷲掴みにされてたんだわ。


いいわよ、この際。
時折戦国武将が乗り移ることくらい、多めに見てあげる。

惚れた弱みなんだからもう、しょうがないじゃない?