「クロ」
低い声が耳に滑ってきた。
私は思わず顔をあげる。
智さんが――というよりは、伊達さんが。
左目のみに黒曜石を思わせるような輝きを携えて、真っ直ぐに私を見ていた。
「クロ……?」
それは、犬の名前か何かですか?
首をかしげながら、彼の言葉を繰り返す。
じぃと、見詰め合うこと数秒。
「知らぬのか」
探るような瞳。
「何の話か分かりません」
仕方が無いので正直に答える。
「……そうか」
残念そうに、伊達さんが言う。
「すみません」
あまりにも気の毒に思えた私は、つい、そう言い添えた。
伊達さんが、僅かに唇の端を吊り上げた。
「何故そちが謝る。変なヤツだ」
……えっと。
どっちかっていうと、変なのはあなたのほうですけどっ。
そう言い変えそうかと思ったけれど、そのかすかに見せてくれた笑みがあまりにも素敵だったから、見蕩れている間に言いそびれてしまった。
穏やかな時間が、縁側に流れていく。
低い声が耳に滑ってきた。
私は思わず顔をあげる。
智さんが――というよりは、伊達さんが。
左目のみに黒曜石を思わせるような輝きを携えて、真っ直ぐに私を見ていた。
「クロ……?」
それは、犬の名前か何かですか?
首をかしげながら、彼の言葉を繰り返す。
じぃと、見詰め合うこと数秒。
「知らぬのか」
探るような瞳。
「何の話か分かりません」
仕方が無いので正直に答える。
「……そうか」
残念そうに、伊達さんが言う。
「すみません」
あまりにも気の毒に思えた私は、つい、そう言い添えた。
伊達さんが、僅かに唇の端を吊り上げた。
「何故そちが謝る。変なヤツだ」
……えっと。
どっちかっていうと、変なのはあなたのほうですけどっ。
そう言い変えそうかと思ったけれど、そのかすかに見せてくれた笑みがあまりにも素敵だったから、見蕩れている間に言いそびれてしまった。
穏やかな時間が、縁側に流れていく。