「女」

名前を聞いたくせに、性別で呼ぶなんて。
って思うけれど、声が出ない。

智さんは、大切な宝石でも扱うように懐紙で刀を丁寧に拭くと鞘に納め、それを私に渡した。

ずしりと、重い。

「わしが刀を持っている限り、これを返してやることは出来ぬからな。
 何、後小半刻(こはんとき)もすればこれは戻るわ」

豪快に笑いながら家へと帰っていく。

「……な、に?
 あれ……」

私は手渡されたどこからどうみてもイミテーションとは思えない日本刀を手に抱えたまま、奏さんに視線を投げる。

「智は元々刀を持つと人が変わるところはあったんだけど。
 あれは本当に憑依されているかもしれないんだよね」

「ひょ、ヒョーイ?」

トーコーに続いて耳慣れぬ言葉が入ってくる。

「霊が憑くってことだ」

いつの間に来ていたのか。
私の後ろで久遠さんがつまらなさげに呟いた。