「千崎夏希と申します」

声が、震えている。
何故か無意識のうちに、敬語を選んでいた。
智さんが持つ、圧倒的な存在感のせいだ。

息をするのすら、今は苦しい――。

「……あなたは?」

「伊達政宗」

重たい言葉が空気を割く。
声が空気を割く様を、私は今初めて目の当たりにした。

じょ、うだんですよね?
笑えないんですけど。

「それで、奏。
 今日はわざわざ何をしに?」

彫刻並みに固まっている私の相手をするのを早々に切り上げた智さんは、ゆっくりした動作で首を動かし、鋭い視線を奏さんに投げた。

「なっちゃんを紹介に来たんだよ」


もっと、驚いたのは奏さんの言葉が一切変わらないことだ。
まるで、この雰囲気の重さを微塵も感じてないような、いつもと変わらぬ柔らかい声。

「何故(なにゆえ)に?」

「夏の間、なっちゃんがうちに住み込んでくれることになったんだ。
 だから、僕はアパートに戻ろうと思って。
 紹介しておかないと、驚くでしょう?」

「はん」

智さんは鼻で笑う。

「このわしを驚かせることが出来るものなど、この世にはおらぬわ」


な、なんですか。
その言い回し!

まるで、私だけ。
大河ドラマの中にでも、連れて来られたような違和感を感じずにはいられなかった。