「大丈夫だ」

久遠さんの低い声が、どっしりと響く。

「え?」

その声に根拠のない安堵を覚えて、私は顔をあげる。
でも、久遠さんの黒い瞳が捉えていたのは、奏さんのほうだった。

「夏希の父親には、既に手付金を払ってある。
 彼女は夏中ここで泊り込む以外に手は無いのだよ」

「は?」

私が目を丸くするのと

「そっかー、じゃあちゃんと説明しようかな」

奏さんが、安堵の吐息を吐いたのはほぼ同時だった。

「ちょぉっと、久遠さん?
 うちの父親にどれほどのお金を渡したっていうの?」

「んー、月収の二倍。
 あ、手取りじゃなくて税込み金額だから」

……って、その細かいことはよく分からないんだけど。

「なぁんでそんな大金をっ」

「もちろん、同じだけお前にも払う。
 気にすんな」

そう言うと、ぽんっと懐から(何故懐から?)厚さ1センチの札束を取りだす。


こここ、これって。
噂が本当なら、1センチの札束は確か百万円……!

あの、うちの父親の月収は税込みであろうが手取りだろうが、絶対に50万円もございませんよ?
見ましたよね、あの、ボロ家!!