……そして。

私は本から顔をあげた瞬間、言葉を失った。
さっきまで金髪だった久遠さん、今や和服にぴったりの黒い髪に変わってるんですもの……。
さらりとした黒髪は、肩位まであってさらりと揺れていた。

「ああ、これ、ウィッグ。
 ほんっと、日本って便利だよね」

そ、そうですか?

「あの、それからずっと不思議だったんですけど。
 どうして、花屋でバイトする話を、久遠さんがつけてくださるんですか?
 店長は、奏さんなんですよね?」

「知らないの?
 奏のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」

さらりと言うと、車から降りていく。

……ハイ?

そ、それは有名な漫画のパクリですかね?
ジャイアニズムってヤツですか?

私も慌てて後を追う。
久遠さんは足を止めて、私を見て唇の端を吊り上げた。

「もちろん、これには応用編がある。
 夏希のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」

……ええええ~?

私が動揺して二の句がつけない間に、久遠さんは躊躇うこともなくうちの呼び鈴を押していた。