眉を潜めている私になんてお構いなしで、久遠さんはまず、私に一冊の本を渡してくれた。

『茶の湯入門―茶の美を極める 龍堂寺久遠』

ずしりと重たいその本は、ちょっとしたアイドルの写真集を思わせるサイズだった。
……め、迷惑。
しかも、そのお値段4800円也。

ぱらぱらと捲ってみれば、オールカラー。
なるほど、高いのも頷ける。

挨拶、心得、茶の湯の道具。
そこらあたりまでは、さらりと説明文で表記してある。

問題は其の後で、立ち居振る舞い、茶の稽古。
全て、カラーの写真つき。

もちろん、モデルは龍堂寺久遠。
今より若いし、髪は黒い。

時折カメラ目線だったり、明らかにどこかのナルシスト歌手もとっていそうなポージングの写真が挟まれているあたり、理解に苦しむ。

私が理解に苦しんでいる様子を、自分の写真に見蕩れていると勘違いしたのか。
久遠さんは照れたような笑みをその綺麗な顔に浮かべて言う。

「まだ、高校生のときの写真だ。
 この本が売れて、うちの門下生も増えたものだ」

……サイデスカ。

この本を見て、お茶をはじめようって思うその精神が若干私には理解できないのですが……。