「いや、あの。
 もったいなかったかどうかは、人生を振り返る年齢になってから改めて考えさせていただきます」

「考える必要などない。
 損はさせないと言っているだろう。
 もったいぶらずに経験すれば良い事なのに」

……よーくーなーいーっ。

「あの。
 私、智さんのこと好きなの、ご存知ですよね?」

「ああ、もちろん」

だったら、って私が口を挟む前に、久遠さんは言葉を続けた。

「それなのに、好きな人の願い一つかなえずに強引に連れて帰ったことも」

独占欲の塊だなー、なんて囁くのはやめてくださいっ。

久遠さんにだけは言われたくないです、それ。
なんとなく。

「願いって言われても。
 どうして、初対面のマスターとキスなんて……。
 特に色恋沙汰に発展しそうな会話なんてなかったですよ」