……って。

えええ。
久遠さん、近いです。
近すぎますっ。

思いの他近くにある久遠さんの顔にどきりとして、頭を後ろにそらそうとしたけれど、そこは相手も慣れたもの、なのか。
久遠さんの大きな手に、私の頭が当たる。

「夏希は、キスをしたことがある?」

……うわぁ、息が触れるってば。

あの。近いんですけど。

私がいくらイケメンが好きっていったってですね。
あの。
後数ミリで唇が触れるほどに近づかれたら、顔も見えないっていうか。

ああ、そうじゃなくて。

「ななな、無いです。
 無いですし、今する気も無いので、出来ればもうちょっと離れていただけます?」

私は、なるべく唇を動かさないように気を配りながら、早口を言う、という斬新な体験をさせられた。

「……おや?
 龍堂寺 久遠とファーストキスなんて、人生で滅多に経験できない貴重かつ最高の体験だぞ」

もったいないねぇ、と、真顔でいいながら久遠さんが私を解放してくれた。



……いろんな意味で、怖ろしすぎる人ですね。