いや、そりゃ智さんはとてつもなく綺麗で。
マスターだって、顔だけ見れば昔は美青年だったんだろうなーと思わせるようないい男ではあるけれど。

うわぁああっ

二人の唇が重なる寸前、私は智さんの背中を引っ張っていた。
だって、だって。

……ねぇ?

「だ、駄目ですっ」

智さんの言葉も聞かずに一万円札を一枚置いて喫茶店を後にした。

心臓がばくばく言って、自分に智さんを引っ張れるほどの力があったことに気づいたのも喫茶店を出た後からだった。

「夏希ちゃん?」

どうしたのさ? あと少しだったのに、なんて言っている智さんを引っ張って花屋に向かう。


えーっと。
智さんに彼女が居なかったのは……。



……男色だから?