カウンター越しにマスターが手を伸ばしてきて、手入れの行き届いた指先で智さんの頬を撫でる。

「鋭い子は嫌いじゃないわ。
 でも、能ある鷹は爪を隠しておかないと、あっさり鷹狩りの標的にされるわよ」

「心得ておきます」

智さんはやんわりと、マスターの手から逃れる。

空気が凍りそうな緊張感があたりに漂っていて、私は息苦しささえ感じてしまう。

出されたホットサンドは美味しい部類に入ると思うのだけれど、私は砂を噛むような気持ちで咀嚼することしか出来なかった。

しかし、それ以降マスターと智さんは会話を交わすこともなかったので、食後の紅茶を頂く頃には、ようやく心も落ち着いて美味しくいただくことができた。