「久遠お気に入りの紅茶を仕入れてくるなんて。
 どういうルートを持ってるんですか?」

さらりと智さんが話題を変えてくれた。

「アイツの舌を唸らせるなんて、ただものじゃないですよ」

ん? と。
後ろを向いて調理していたマスターが振り返る。

「いやぁね。
 好きなだけよ、ただ。
 時間があったから、好きなことを極めただけ。
 そうしたら、紅茶にたどり着いたのよ、私の場合」

にこり、と。
紅い唇が妖艶な笑みを形取る。

「好きなものを極めるなんて、無理ですよ、普通は。
 好きなものは楽しむべきで、極めるべきものじゃない。
 どこかで嫌になって投げ出すのが常人です」

「……あら、坊やは私のことを常人ではない、というのかしら?」

きらり、と。
マスターの大きな瞳に怪しい光が浮かぶ。

「ええ、良い意味で」

智さんはうろたえることもなく、涼やかな笑みを浮かべてそう答えた。