とはいえ、これ以上あてもなく歩き回るのも嫌だったので、記憶を辿って、とても喫茶店とは思えないお洒落な建物へと再び足を運ぶことにした。

ドキドキしながらドアを開ける。

「あらぁ、私が知らない美男子って、まだ居たのねぇ。
 いらっしゃい」

喫茶店のマスターは、相変わらずその格好を裏切るような喋り方で初対面の智さんに声を掛けた。

店内には、他に数名紅茶を楽しんでいる人も居る。

「こんにちは。
 ここって、ランチなんてやってます?」

「ええ。
 素敵な男の子が望むなら、私、なんでもやっちゃうわ」

……そ、それはメニューとは無関係に……ってことでしょうか?

「もちろん、その隣の子にもついでに何か食べさせてあげるわ。
 どうぞどうぞ、おかけになって」

……つ、ついで?

私は思わず智さんを置いて店を出て行きたくなった、けれど。
それを察したのかいち早く智さんが私の手首を掴んできたのだ。

……さすがに、動きは素早くて、力は強くて。
私なんかがかなうわけもない。