「私のお母さんは、18才で私のことを産んで、この世を去りました…」




「そうだったの…」




「小さい頃は、周りの友達にお母さんがいない事で虐められたこともあったし、虐められていたことで夜中にお母さんの遺影を見て泣くこともありました」




愛空は、いつもの調子で顔色ひとつ変えることなく冷静に淡々と話し始めた。




「でも、私、本当はお母さんがいないことで辛いとか、寂しいとか思った事は一度もないんです。そんなふうに思ってるなんて、お母さんに悪いし、酷い娘だなと自分でも思います…」




「…淋しくないの?」




「はい…私は…お母さんといた記憶はありませんから。私を産んで亡くなってしまったから…お母さんとの記憶がないじゃないですか…」




そう、愛空は言った。




お母さんといた記憶がないから…




淋しくない…?




そんなもんなのかな……




「でも、お父さんは違う。お母さんと一緒にいた記憶、愛し合った記憶があります。きっとお父さんはすごく淋しいと思います。私が5才の時、お父さんは初めて私の前で泣きました。お母さんを想って、お母さんに逢いたくて…。」




あたしは、愛空の手を握った。




「それからお父さんは一度も泣きません。だから私も泣かないと決めました。お母さんの記憶はなくても、お父さんがお母さんの話をしてくれます。どんな人だったとか、とても嬉しそうに…。今でもよく、お母さんの話をしてくれます。そんなお父さんが私は好きです。」




「愛空のお父さん、今でも亡くなったお母さんをすごく愛しているのね…」




「私が、お母さんと話すのは、お父さんのそんな思いを伝えるためです。この場所は空がよく見えますから。それと、お母さんもお父さんのことを頼むって、遠い空から、私に言っているような気がして」




「きっとお母さんと愛空は、目に見えない何かで繋がっているのかもしれないね…」




あたしは、広い大きな空を見上げた。