――…ザザーッ…ザー




静かに流れる波の音。砂浜にちょこんと座る愛空の姿が見えた。




「愛空ーーーっ!!」




あたしの叫んだ声に、愛空は振り返り笑った。




「先生……」




あたしは手を振りながら、愛空のそばに駆け寄った。




「よく、私がここにいるってわかりましたね。…拓真から聞いたんですか?」




あたしは愛空の隣に座った。




「うん、…愛空…あのね…」




あたしは、本当に教師失格だと思う。何て言えば、何て切り出したらいいかもわからなかった。




「…絢音先生…今日のことで心配して来てくれたんですよね?私なら、本当に大丈夫ですから」




愛空は、大人のあたしが何を考えているかさえ、見抜いてしまう。




感受性が豊かというか…




頭がいいのか……




「愛空…辛い時は、辛いって言えばいいし、泣きたいときは泣いたっていいんだよ…?」




「今日、何でカズが私のお弁当を投げたのか、カズの気持ちも、わかりますから。だから大丈夫です。それに私、学級委員だしこんなことでクラスの雰囲気悪くしたくないし、カズのこと怒ったりしてませんから、本当に」




いつも冷静に話す、そしてこの目の前の笑顔は、偽りの笑顔だとしたら…?




「愛空…先生ね、愛空のこと全然知らないよね。もう3ヶ月も一緒にいるのに…先生あなたの何を見てきたんだろう…」




「絢音先生……」




「しっかり者で、成績もいつも良くて、学級委員としてクラスをまとめてくれて、女子たちからも好かれてるし、愛空は頼りない先生をいつも助けてくれてた…でも先生は何にも愛空のこと知らない……」




「…絢音先生、この場所は、お話する場所なんです」




愛空は満面の笑顔であたしに言った。




「お話…する場所…?」




「ここでよくお母さんに話しかけます。逢ったことのないお母さんに…私をこの世に産んでくれたお母さんに。空からいつも見守ってくれるお母さんに…」