あたしを押しのけて、拓真がすごい勢いでカズの身体を床に押し倒し、拓真は馬乗りになった。
「てめぇカズ!愛空に謝れっ!」
拓真はカズの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「ふんっ」
カズは、ふてくされたように横を向く。
そんなカズに拓真が殴りかかろうとしたので、止めようとした瞬間、愛空は言った。
「暴力反対っ…!」
愛空の声に、拓真の拳は、カズの頬の数センチ前で止まる。
「……そうだよ?お母さんいないもん。お弁当は私が作ったんだから」
愛空は冷静な口調で言った後、床に落ちているお弁当の中身を拾い集めた。
あたしはしゃがみ込み、それを手伝った。
「絢音先生、ありがと」
愛空はニコっと笑った。
「愛空……」
あたしは何も言えなかった。
暴力反対と、愛空に言われた拓真は、カズに思い切りデコピンをして、教室を出ていった。
「愛空……あとで先生の方から、カズに何であんなことしたのか聞くから…」
「私は大丈夫です、絢音先生…気にしないで」
愛空は、悲しんだ顔ひとつしない。
この子は何で…
何でこんなに感情を出さないのだろう……
まだ8才だよ?
普通こんなことされたら
あたしだったら
泣くし
笑ったりなんて絶対できないし
相手を許せないし
でも愛空は
顔色ひとつ変えずに
お弁当を片付け終えた