「隣の席のその子は、ある日の授業中、小さな声で俺に呼び掛けて、先生にばれないように窓の外を指差した…」




“…っ…ねぇ…ねぇっ…有坂くん…”




“……なに…?高梨…”




“あれっ…見て…”




「その子が指差した窓の外には、綺麗な虹がかかってた。今まで、虹を見たって何とも思わなかったのに…その子は、勉強しかない俺に小さな幸せをくれた」




「………」




「俺は…初めて……人を好きになった…」




「…やめて……っ」




あたしは、両手で自分の耳を塞いだ。




「自分が傷つけた…その人は、俺の愛しい人……」




「やめてよ…っ」




「このまま黙って…高梨を自分のモノにしたかった」




「よくそんなこと言えたわね…」




あたしは雨に濡れた土を掴んで、有坂に投げつけた。




「あたしは…ケンと別れないから…」




「さっき見てたから、わかった。ケンへの大っ嫌いは、大好きだから言ってんだもんな」




あたしの後、つけてたんだ。




「ケンは…ずっと…苦しい時、あたしのそばにいてくれたんだからぁ…」




「…罪は、絶対に罰として返ってくるってよくわかった…自分の好きな人が…自分のことをこの世で一番恨んでる。好きな人を傷つけたのが自分なんて…」




辺りは暗くても、泥まみれの顔でも、わかったんだ。有坂が悲しい顔をしてることぐらい。




「そんな顔しないでよ…何で…自分が一番傷ついてますって顔すんのっ?」




「ごめん…」




胸を押さえながら、もう片方の手で、土を強く握りしめた。