「ケ、ケン?落ち着いて聞いてね?」




あたしがケンの元に駆け寄ると、ケンはあたしに見向きもしない。しかもあたしの言葉は無視され、有坂くんを睨みつけているし、このままじゃヤバいと思った。




「…ここは…とりあえず逃げて…」




「何で?」




何で?って…有坂くんは何もなかったように余裕で返事をするけど、ケンがただの野生のサルになったら、あたし止められない。




「てめぇ!美々に何してんだよっ!」




「やめて、お願い…ケン!」




あたしは、もう手遅れだと思い、顔を手で覆った。




ボスッ…ズダーンッ……――!!




鈍い音だけが聞こえた。最悪だ。ごめん、有坂くん…




「イッて…」




えっ…?


目を開けると、ケンが床に倒れていた。




「小学校ん時から空手やってたんだ…」




どうやらケンは一本背負いされたらしく、あおむけに倒れたままだった。そんなケンに向かって有坂くんは、ニコッと笑いかけた。




「それと、高梨は何も悪くないから。俺が勝手に手ぇ出したんだ」




「…テメェいいかげんに……」




「高梨のこと…もらっていい?」




「おまえなんかに渡さねぇーよ…!」




有坂くんは、あたしの肩をポンと叩いて、その場を立ち去った。