涼しい夏の夜風が吹き抜ける。辺りは真っ暗で、とても静か、人通りはない。でも怖くなんかない。蒼が一緒だから。
おぶられていると、蒼の顔がちっとも見えない…。
いま…どんな顔してるの…?
「浴衣って…いいな」
歩きながら蒼が急に呟いた。
「可愛い?」
「エロい」
――…ゴンッ
蒼の頭をグーで殴った。
「イッてぇな…」
「蒼がそういうこと言うからでしょ?」
「…可愛いって思うのも…そういう気持ちになんのも…おまえだけだよ」
胸がぎゅっと苦しくなった。
「……ずるい…」
「何が…?」
あたしのことばっかりドキドキさせるから。ずるいよ。
「…何でもない」
蒼の言葉ひとつで
笑ったり
泣いたり
あたしを動かしているのは
蒼なんだよ
このままずっと
家に着かなければいいのに……
このまま時間が
止まってしまえばいいのに……―――