3月。
『卒業生、退場』
音楽に見送られ、みんなゆっくりと歩き出す。
お父さん、お母さん。
あたしは今日中学校を、卒業します。
3年という短い時間の中だったけど、たくさんの思い出ができました。

体育祭。
人数が少なすぎて毎年3時間で終わってしまったよね。
合唱祭。
人数が少なすぎて毎年一曲しか歌ってなかったよね。
修学旅行。
人数が少なすぎて全員で5部屋だったよね。
部活動。
人数が少なすぎて毎年チームすら作れなかったよね。

こうしてゆっくり思い返すと、中学校生活は楽しい事ばかりだった。
人数は少なかったけど、男女問わず仲はよかったし。
3年。長いようで短かった。
それも今日で終わる。
床をゆっくりと、でも力強く、踏みしめて歩く。
この扉の向こうへいけば、中学校生活は本当に終わるんだ。

『―以上、卒業生29名』

「―ああぁ…」
とうとう退場してしまった。
ガクンと、力が抜ける。
暮林 遥。
1週間後の今ごろはもう高校生。
あたしのまわりはただでさえ金銭的問題で高校進学する人が少ないのに、大都会の県外へ行く人はあたしひとり。
みんないい人だといいなぁ…。