人はもしも共に戦う仲間を突然失ったらどうするだろう。
ましてそれが唯一の存在だったら、
かつてない程の気の許せる仲間だったら、

あなたは それでも戦うか。

「本当に難しい生徒でしたなぁ」

人気のない廊下で、2名の教師が話している。
それはあからさまに一沙の話題で、丁度通り掛かった灯夜はつい物陰でその話を聞いてしまっている。

「原因は精神的混乱という事になったそうですよ。」

「そうでしょうねぇ。まったく最後の最後まで学校の面汚しをしてくれたもんだ。」

「はは…まぁ、そのおかげか最近片割れの方もおとなしくしてますね。」

「ああ、大月ですか。アイツも最初は真面目な奴だとおもったんですがね。成績はいつも上位だし反抗さえしなければ良い模範生なんですがねぇ。」


…腐ってる!

『精神的混乱という事になった』?
完全に改竄じゃないか。おかしいのはこの学校だろ?
『学校の面汚し』?
今迄汚れてなかっていうのか?
…駄目だこの学校は。正面な教師がいない!
灯夜は怒りが込み上げて来た。
一沙の死が、なんの歯止めにもなっていないのだ。それどころか笑い者にされている。
世間でも日常の社会問題として流されてしまった。

ここ最近灯夜は教師への対抗を避けていた。
今歯向かえば一沙の事を担ぎ出されるだろう。
そうなった時に言い返し続ける自信が無かったのだ。
一沙の死は、灯夜にとって想像以上に重い物だった。
これ程に落ち込んだ事も今迄なかなか無かったのでどうすれば良いかわからなくなっていたのである。
しかし、今の会話を聞いていたら、一沙の手紙が思い出されて―…

「おっ大月!?お前、聞いていたのか!?」

教師の一人が廊下の角に潜んでいた灯夜に気付いた。いかにも慌てた様子だ。

「先生。」

我慢ならなかった。灯夜は戦う決意を再び固めた。
自分が正気を保つ為。一沙の死を無駄にしない為。

「…校則になければ人の死を嘲ってもいいんですか。」

「…聞いてたな。」

教師は灯夜の質問に答えず、間を開けて静かにそう言った。
ゴッ
鈍い音が鳴ると同時に灯夜の頬を教師の拳が打った。骨に響く様な痛みが走り、後ろに倒れ込みそうになる。