葵はにこっと微笑み、両手を前に出した。
「ちょっとかすっただけだから、大丈夫だよ」
「そっか。よかったあー」
バスケットボールを受け取りながら安心した顔でくしゃっと笑う。
黙っていると、
「見たことねえけど・・・転入生??」
と再び話しかけてきた。
「うん。今日からここに転入するんだ」
「そうなんだ。俺、佐藤海輝っての。あんたは??」
「佐藤くんね。あたし、陽向葵」
「葵ねー。俺のこと海輝でいいから」
「わかった。職員室、ここだよね?」
ほぼ確信していたが、一応聞いておく。
「そーだよ。同じクラスだといーね」
海輝が再び笑顔を向ける。
するとチャイムがなった。
廊下には既に人はほとんどいなかった。
「やっべ!じゃあね、葵」
そう言い残し、走っていく海輝。
しばらく後ろ姿を見ていたが「慌ただしい人」と小さく声に出して笑い、海輝とは反対に歩き始めた。
これが、『佐藤海輝』との出逢いだった。
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