あちこちで声がし始めたが、特に気にしなかった。
自分のことだなんて少しも考えていなかったからだ。


さっき言われた席に鞄をおく。


座ろうとすると「あーおいっ」と前から呼ばれた。

葵が斜め前の席を見ると、ピースをしている海輝が目に入る。


「同じクラスだったね」と海輝が笑う。

葵も「よかった」と笑顔をみせた。


そんな二人を眺めていた紗季が口を開いた。


「葵ちゃん。私、中島紗季。よろしくね」

葵に笑顔を向けた紗季の顔はとても綺麗で。
可愛いとはちょっと違う。
大人っぽさを感じた。

「わっ!綺麗っ!」

気がつくと葵は思ったことをそのまま口に出していた。

紗季はきょとんとしている。
自分に向けられた言葉だと理解するのに時間がかかった。


「よかったね、紗季。綺麗だって」

海輝が笑いを含んだ声で言うと、紗季はやっと理解ができたらしく「そんなことないよっ!」と強く否定した。

「てゆか、葵ちゃんのほうが・・・」と紗季は言いかけて止まった。

葵ちゃんのほうが可愛いと言おうとしたが、あることに気がついてしまった。


剛弘の存在に、だ。






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