「先生はよくここに来るんですか?」
コーヒーをカップに注ぎながら、先生の顔を見る。
「実はさ、学生の頃からの憩いの場。」
聞かなくても、分かってて始めたここでのバイト。
「じゃぁ、これからもっと先生に会えるかな」
「え…」
思った通りの反応に胸がわくわくした。
「この辺り、夜になると変質者が出るらしいんです…。だから先生がいてくれたら…安心かなって」
「…バイト何時までなんだ?」
…来たっ
にやけそうになる顔を必死で堪えて、時間を告げた。
「先生は毎回来れるわけじゃないからな、充分気を付けるんだぞ。」
先生は教師らしい言葉を言いながら、照れたように笑った。
***
暗くなった道は、そうじゃない時に比べると、並んで歩くことに変な緊張感を感じさせる。
意識し出した二人なら尚更。
ほんの少し先生との距離を詰めると、急にお喋りになる先生
それは私が今までしてきたことが報われている証拠。
やりたくもない学校委員
女子の目を盗んでの待ち伏せ
その度に近付いているように感じた先生との距離。
つまらないと思っていた高校生活も先生のお陰で楽しくなりつつあった。
「佐山、何度も言うようだけど、先生が毎回送ってやれるわけじゃない…」
まるで自分に言い聞かせるように言う先生がなんだか可愛く見える
「わかってます。でも、いいですね。こんな風にゆっくり歩くお散歩デート」
デート…その単語に反応したら作戦成功
「デートってわけじゃないだろ、たまたま俺が客としていたから…、」
…あ、俺って言った
自分のこと"先生"じゃなく、"俺"って
やっぱりこれは
先生と私の秘密のデートなんだ。