塀に沿って植えられている木々が、眩しいくらいの陽射しを遮る。
寝不足の体には丁度いい陰りをゆっくり歩いていくと、校門の前に立つ先生を見付けた。
「佐山、おはよう」
いつもと同じ笑顔で挨拶をしてくれたことに安心した。
自分の気持ちを意識し出したら、そんな些細なことでさえ嬉しく思ってしまう。
寝癖のついた髪を触ったら、少し戸惑った顔をした先生に、昨日ずっと考えて、言おうと思っていたことを言った。
無かったことにはしたくないけど、嫌われるのだけはイヤだった。
何かが変わった私と先生の関係が、マイナスになっていなければいいと思う。
***
午前中最後の授業
窓からそよぐ風に寝癖のついた先生の髪が揺れている。
片手に教科書を持って、もう片方の手はポケットの中
何度か目が合って、そんなことにも嬉しくなったりする。
先生の考えていること
先生の見ているモノ
全部知りたくなる
終わりを告げるチャイムが鳴ってしばらくすると、どこからともなく現れる女子の群れに取り囲まれる先生を横目に屋上へ向かった。
「秋吉、モテモテ…あんなののどこがいいんだろ」
「理菜のタイプじゃないかもね」
「なんかウザくない?熱血ぶってんのとか」
少し前までは理菜と同じ気持ちだった
先生に近付いたのも、単なる興味だったのに
ミイラ獲りがミイラに
捕らえられたのは私だ。
「そのウザさがいいんじゃない?」
そんなに意外だったのか、驚いたように私を見る理菜に
「私は結構好きだよ、遼太郎」
自分で言って照れるなんて、相当だ。
「へぇ〜、委員長はああいうのが好きなんだな」
「っ!?」
誰もいないはずのタンクの裏から声がして、タバコをくわえた紀之が顔を出した。