私の眼鏡で遊んでる紀之は、ふざけているように見えるけど本当は優しくて、きっと悩みだって聞いてくれる。


でも今のままじゃ話せない

今の関係のままじゃ


こんなことしてる私に先生を好きでいることなんて無理なんだ。



「なぁ優梨、聞いてる?」


「あ、ごめん何の話だっけ」


「だからぁ凄かったんだって」

「ああシンさん?」


「今日は代理のDJだったんだけどさ、それがすげぇの、なんつぅか魂もってかれる感じ?」


「へぇ…」



スクラッチがどうとかジャグリングがどうとか…こうなると紀之の話は止まらない


「優梨にも見せたかったなぁ、リョウさんのライブ〜。俺知らなかったんだけど、結構有名らしいよ。何年か前はよくDJバトルとか出てたって」


息継ぎする間もなく話す紀之はすごく楽しそうで、余計に何も言えなくなる。


『普通の友達に戻ろう』って。



「ねぇ紀之」


「あっヤベっ、沙紀に電話すんの忘れてた。」


携帯を開いて、空いた手でシーッのポーズ


「家に帰ってからかければいいのに」


「いいの、すぐ終わるからさ、つぅか俺今日ここ泊まるし」


「泊まるって…」


「優梨の部屋に来たの超久し振りじゃん」


「そう言う問題じゃなくて」


「なんだよ…お前がそんな渋るの初めてだな」


「…だから…あのね…」


「いいだろ、おばさん帰るのどうせ昼近くなんだし」


きっかけを掴もうとする私にその隙さえ与えてくれない。


紀之には間違っていることだなんて意識はないんだ。



「あ、もしもし俺、悪ぃ寝てた」



…紀之は誰かを本気で好きになったことあるのかな。




微かに漏れる小高沙紀の嬉しそうな声に罪悪感を感じた。