「先生も…、ドキドキしてるね」


「……」


そりゃドキドキするよ


いろんな意味で。


でも佐山のドキドキは俺のとは違うんだ。


俺も佐山くらいのころは、思春期特有の胸の高鳴りを特別なものだって勘違いした。


でもそれは特別なんかじゃない



時と共に冷める熱




♪♪♪♪



「携帯鳴ってるから…」


「…だから?」


「これじゃ出られないよ」




電話をかけてきたのは昔からのダチで、悪友であるヤツに感謝したのはきっと今が初めてだ。


「すぐ終わるから」


俺から離れた佐山はつまらなそうな顔をする。

冷静になるために携帯越しの声に意識を集中させた。



たまにはヤツの相手をするのも悪くない。

最近断ってばっかだったし、夜遊びで頭を冷やすのも悪くないだろう。





「今から遊びに行くんですか?」


「…そうだな、多分」


「女の人?」



「…早く風呂入って寝ろ」



「まだ寝るには早いですよ。着替えて来ます。」


「着替えてって…連れて行かないぞ」


俺の声が聞こえないのか「待ってて下さいね」って言いながら門に手をかける佐山。






「優等生はもう寝る時間だろ。あんまり困らせんなよ」



「………」





「な、なぁ佐山…、佐山は俺にとって大事な生徒だし…、高校生が出入りするような場所じゃないんだ。」



黙ったまま振り向かない佐山に傷ついたんじゃないかとか、


「先生なんて大っ嫌い」なんて言われたらイヤだって、教師としてじゃない感情に支配される。



「…それに佐山くらいのころは誰もそうなんだよ…。何もかもが新鮮で、新しい世界に飛び込みたくなる。
でもな、飛び込んでから気付くんだ…
大したことないってさ。

だから一時の感情に流されるのは止めた方がいい。」



最後の方はもう何が言いたいのかわかんなくなってきた。


感情に流されてんのは…俺だ。