「何か欲しいものでもあんのか?」
頭1つ分高い所から先生の声がして、さっき考えていたことを見抜かれたのかと思った。
「ははっ何だその顔、言えないようなものか?」
背伸びして見上げても、先生との間にはまだ壁がある。
「先生…」
「佐山…?食いたいのか?これ」
おどけたようにそう言って、美味しい匂いの元を、私の目の前に揺らした。
先生の軽い口調が、さっきまでの空気を一瞬にして変えてしまう。
「…私だって年頃ですもん、お洒落したいんです。その資金稼ぎですよ。」
「しっかりしてるからなぁ佐山は」
「先生は、もっとしっかりして下さい。そんなカロリー高いのばっかり食べてちゃ駄目ですよ。お昼だっていつも購買じゃないですか」
「言うね〜、」
…昼休みの購買で生徒と一緒にパンを奪い合ってる先生なんて聞いたことないよ。
「作ってくれる人いないんですか?」
逃げられないように、茶化されないように、交わった視線に気持ちを込めた。
でも先生は、こんな私の視線も質問も簡単にかわしてしまう。
「先生はね、学校の購買のパンが好きなのっ。んでもってあそこのクラブサンドがその次の好物。」
そしていつでも、上手に逃げ道を作るんだ。