中学の時、当時紀之が付き合っていた彼女に、殴られたことがあった。


キスの最中に紀之が、私の名前を呼んだとか呼ばないとか。


突然沸いて出た三角関係の噂は、あっという間に広がり、学校のどこにいても、誰かに見られているような、息が詰まるような思いをしなければならなくなったんだ。



そんなのはもう嫌


だからこの高校を選んだのに


入試の日に、紀之と理菜を見た時は、遠い道のりを引き返して帰ろうかと思ったくらいだ。



「しかし紀之も懲りないよね、あんなことがあったのに、まだ優梨と続いてるんだから。」


「…アイツすけべだから」


「ははっ」



「…続けてる意識はないよ、私。多分…紀之も。止める理由がないだけ。」


「それって一番手に負えないんじゃん」


「そうかなぁ…」



「まぁ、あたしはさ、優梨が楽しんでるなら、それでいいんだけどね。」





ホームルームが始まる五分前の廊下には、私と理菜しかいない。



理菜の後ろに、出席簿を脇に挟んだ白衣姿が見えた。




「…先生だ。」


「げっ、秋吉」



慌てて教室に入った理菜を見届けたら、廊下には私と先生だけになった。




「おはようございます。秋吉先生」



「おはよう」


「昨日はありがとうございました。」



「いや、別に。佐山の家遠いし、ほら、帰り道でもあるから…ついでって言うか…」



言い訳してるみたいな先生の袖を引いて顔を上げると、困ったような顔で私を見ている先生と目が合った。




「…っ…早く席に付け」


「は〜い」




いつもと少し違うのは


気のせいじゃないよね?先生。