届けモノを無事渡し、報酬を受け取った。

そして、宿屋への帰り道の事だった。

ガルンの空気が、前触れなく突然切り替わった。

ガルンの視線が、ただ一点に向けられた。

視線以外にも彼の全てが、そちらに向かったのを感じる。

苛烈な感情。
怒り、憎しみ、嫌悪、怨み。

そして…殺意。

全て普段のガルンからは、あまり感じられない種類の感情(モノ)。

その、突如吹き出した感情が。

(痛い。)

私に向けられているわけでないのに、竦む体。

周囲の音が遠ざかり、ガルン歯軋りがやけに大きく耳に届いた。

言葉にならない、叫びのような唸り。

ゆらり。

ガルンから立ち上る、陽炎の幻影が見えた。

ゆらり。

始めは、いっそゆったり優雅にも見える動作で、ガルンは動き出す。

瞬く間に嵐となり、障害物を華麗にかわしながら、一点へとガルンは走り去った。

気がつくと、私は雑踏の中に、一人で取り残されていた。

ポツンと。

人々はまた、何事も無かったように歩き出す。

私を置き去りにして。