「遠いところをわざわざご苦労様です」
別に遠くないよ。電車で30分だよ。
櫂が煎れたお茶を飲みながら「あら、やっぱり煎れる人で違うのね」なんてつぶやくお母さん。
恥ずかしいから、やめてください。
隣で櫂、笑いこらえてんじゃん!!
櫂は、物珍しそうにキョロキョロと部屋を見回す。
この人お坊っちゃんだから、庶民の家初めてなんだよね……たぶん。
すいませんね、庶民通りこして貧乏で。
「…な、愛ちゃん、お父さんあれか?」
櫂が部屋のすみっこの仏壇を指差す。
そこには変わらないお父さんの笑顔があった。
「うん、そう」