驚く私に近づいて、抱きしめる。
「爽がっ…美羽と一緒におって…っもしかしたらって、思ってな」
走ってきてくれたんだろうか。
息が上がってて、顔には汗が滲んでる。
あせっているのか、抱きしめる腕が強い。
「美羽は、爽のネクタイしとるし…」
あ、だから、なかったんだ。
爽が、取ったんだ。
美羽さんのために。
「愛ちゃん……平気?」
そう言って櫂が私の顔を覗くから、
私は笑う。
「大丈夫…だよ!全然へい………」
「き」まで言い終わらないうちに、また櫂の腕のなか。
つくり笑いが消える。
櫂の声が耳元で響いた。
「……泣きぃや。俺しか聞いとらんから」
―――その優しい腕に、声に、安心して。
私はただ、涙を流した。