「はぁッ…はぁッ……」
……着いた。
…なんか人だかりが出来てる…。
私は人だかりをくぐり抜けて、前の方まで行った。
「おいっ!待てよ稚菜【ちな】!!」
椋介の声……!!
…知絵ちゃんもいる。
椋介が知絵ちゃんの腕をつかむ。
「待てったら!」
「いやぁッ!離して!」
「ヤダッ!」
「なんでよぉ!!?」
「お前が……稚菜が…好きだからッ!!」
真剣な瞳の椋介。
「………え?」
知絵ちゃんの潤んだ瞳と椋介の瞳がぶつかる。
――――ズキッ!!
とてつもない痛みが胸に走る。
「―――痛ッ」
「はい、カットぉ―!」
監督らしき人が叫ぶ。
「じゃあ、今日はここまで!お疲れ、椋介君。知絵ちゃん。」
「「お疲れ様でした!」」
知絵ちゃんと椋介が、満面の笑みでスタッフの人達に挨拶する。
――――ポロッ
こらえきれない涙が、零れた。
………あ。
椋介と目が合った。
驚いた表情をして、こっちを見ている。
これ以上ココに居たくなくて、近くの建物の影に隠れた。
『お前が……好きだからッ!!』
「イヤァッ!!!」
耳を塞いでも、その言葉が響く。
…演技なのは分かってる。
………でも、
他の女の子に触れないで。
他の女の子に……
『好き』なんて……
言わないでよッ………