「……疾風(はやて)、というのを知っているかね?」 まるで昔話を語るような口振り。 動けない梳菜に代わり、吉代が首を横に振って見せた。 すると、薬師の声は一層重くなった。 「疫痢(えきり)ともいう、病じゃ。 赤痢(せきり)ってぇ病のひとつじゃがの。 …わしは医者じゃから、今まで何人も診てきたんじゃが……。 この病は、治しようがない…。 かかれば最期。 もう、助からんのじゃ…。」