肌寒くもある朝の空気に少し身を冷やし、羽織を着込み直す。


風避けとして翼を広げないのは、せめてもの彼の足掻きであった。
梳菜が来るかもしれないときに、不本意に自分が天狗であると知られたくはない。

そして、命を狙われる身であるために、不用意に敵に居場所を知られたくなかったためだ。


「………寒いな……。」


素直に呟くと、萬天は太陽の輪郭が見えてきた山の端に目を向け、吐息をもらした。


腕の中に何もないというのは、こんなにも寂しいものだったか……。